2006年05月01日(月) コメント:5 トラックバック:0
もう数ヶ月前のハナシなのだけど、「ほめてあげる」が謙譲語か否か、という問題がありまして、いろいろと物議をかもし出したわけです。
- 「ほめてあげる」は謙譲語ではない - HsbtDiary (2005-12-07)
※コメント欄も含めてお読みいただければ幸いです
上記関連記事コメント欄では、「あげる」は「やる」の謙譲語である、だから「ほめてあげる」は謙譲語だ、という主張があったのですが、結論がハッキリしないまま、うやむやに。
その後、いくつかの書物とかネット検索で調べていたのですが、どうやら「あげる」自体は、もともとは謙譲語である事が判明しました。
「犬に餌をあげる」「子供に小遣いをあげる」は、敬語の考え方からするとおかしいという事は、多くの敬語解説書(あるいはウェブサイト)で書かれていることです。
但し、最近では「あげる」という言葉にぞんざいな印象を受けるという人が多い事から、謙譲語というよりは丁寧語として使われるのが一般的とか(参考:[教えて!goo] 「あげる」は敬語か)。
また「ほめる」という行為は、やはり上から下への評価であるという認識から、下位の者が上位の者に対して使うべきではない、という人が多いようです( 敬語の基本レッスン第128号「上司に言ってはいけない言葉」・ 敬語の基本レッスン 第130号)。
そんな事を調べている時に読んだ本がこれ。
この本で筆者は「正しい敬語とは何か」をテーマに、分かりやすい図解を用いて、敬語の有り方を説明しています。
辞書に書いてあることは、必ずしも正しいことではない、「辞書に書いてあることを疑え」という部分は面白いし同意できるのですが、僕はこの本からは「本来の敬語」は学べても、「世間で通じる敬語」は、必ずしも学べないのではないか、と感じました。
筆者の萩野さんは「言葉の意味は移り変わるもの」と許容しながらも、誤用から広まった敬語については、「それは間違いだ! そんなのは恥だ!」というようなことを次から次へと書き綴っているのです。
単語の意味が移り変わるものなら、敬語の使い方だって移り変わるものじゃないの、と僕は思うんですけど。
フレッシュマン向けのビジネスマナー啓蒙書などでよく書かれている「上司へ言ってはいけない言葉」として、「ご苦労様」というのがあります。「ご苦労」は上位から下位へ向けた言葉だから、下位の者が上位の者へ言うことじゃないという「世間一般の常識」ですね。
萩野さんは、これを「間違いだ」と言います。
上位から下位へねぎらいの意味を込めて言う場合、「ご苦労様」の「様」はもちろんの事「御」もつけるものじゃない、昔の殿様は、部下に対しては「苦労」としか言わなかった、ということです。 だから、時代劇で黄門様が助さん格さんに「ご苦労じゃった」というはずがない、脚本家が不勉強だ、とイチャモンをつけているのです。
どうなんでしょうね? 脚本家が不勉強なのかどうかは分からないけれど、時代考証がどうであれ、視聴者の立場で考えると、黄門様が助さん格さんに向かって「苦労!」などとねぎらっても、「ハァ?」と思いますよ。江戸時代の言葉遣いを知りたくて時代劇を観るわけじゃないですし。
敬称に敬称を重ねると、物凄く違和感があります。例えば「先生様」「先輩様」「大統領様」などです。
当然、会社での役職に「様」をつけるのも、本来はおかしなものなのですが、意外にも会社で「ヤマダ部長様」「スズキ課長様」というような書面を目にする事は少なくありません。ビジネス文書でたまに見かける「ナントカ各位様」も同じ部類です。
でも国語的にはおかしいこれらの表現も、それを平気で使う人たちの間では、むしろ常識としてまかり通っていて、取引先への通信の宛名に「コバヤシ部長」と書いては、相手に「差出人は失礼なヤツ」と思われかねません。コバヤシ部長が黙っているのなら、ちょっと不快感を与える程度で済むのですが、もしコバヤシ部長(またはその文面を見た第三者)が「越後屋君、‘様’をつけなきゃ失礼だろう」と助言を受けたとしたら、これはかなりキビシーッ!(財津一郎の真似をしながら読むこと)
その際に「役職はそれが敬称の意味を持つから、ナントカ部長様というのはおかしいんですよ」とはなかなか言い難いものです。
ある程度の国語能力を備えた人ならば、「コバヤシ部長様」がおかしな表現である事はすぐに分かる事なのですけど、それをあからさまに指摘することは「あんたバカ?」と言っているに等しい事にもなり、もしかしたらそんなに遠くない将来、こちらの誤った使い方が「正しい用法」となるかもしれません。
僕はまだその使い方を認めたくはないのですが、そっちの方が明らかに一般的となった場合は、心の中の不満を隠しつつも一般例に従うのだろうなぁ。
……というような事を「ほんとうの敬語」を読んで考えました。
追記
このエントリにいただいたはてなブックマークを見ました。はてなブックマーク - ゆみぞう+ブックマーク / 2006年05月01日動詞「あげる」と補助動詞「てあげる」は区別した方がいいかも。
これを見て1977年から所有している「改訂 新潮国語辞典-久松潜一監修」の引っ張り出してみました。
「あげる」の項目の最後のほうにこんなことが書いてありました。
補助動詞的に用いる
- (…して)はっきりあらわす。「歌い‐げる」
- (特殊な動詞の連用形に付いて)相手に向かってする動作をへりくだっていう。「願い‐げます」
- (動詞の連用形に付いて「…て(で)あげる」の形で)相手にしかける動作を丁寧に言う。「書いて‐げる」
「ほめてあげる」は上記のうち3つ目にあたるんですね。あー、なんかモヤっとからすっきり!
追記2
ブクマコメントで「〜殿」に関して〜部長殿のほうが良いと思う
という物があったので、気になって調べて見ました。
僕は「〜殿」は下位の者が上位の者に対して使う言葉じゃないと認識していましたが、調べるといろいろ考え方がある模様。
- 名前に「殿」は付けてはいけない[デジタル/シゴト/技術]
「同輩あるいは目下に対する時、のみ」である。あるいはオフィシャルな立場で相手になにかを申し送る場合、かな。
- 日本語Q&A:スペースアルク
あくまでも事務的なやり取りというものを想定されるのであれば「殿」を用いて差し支えないということになるでしょう。
- 敬称のマナー/殿の使い方 - COBS ONLINE : ネオ・マナー(読者参加型で、いろいろな人の意見が読めます)
役職に殿をつけるのは間違い。二重敬語にあたります。
名前+役職名につける場合は「殿」、役職+名前の場合は「様」と教わりました。
- 初級者 敬称・時候の挨拶例
- 役職には「殿」を推奨。
- あははっ 敬語 接尾辞
個人名や団体名には「様」、役職名には「殿」を使うのが現在の主流です。
他いろいろ読んでみましたが、どうやら「文法的には‘〜部長殿’は間違い」だけど、「慣例としてあながちおかしなものではない」ということに落ち着きそう、僕の中では。
2006年05月01日(月)
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コメント(5件)
敬語の誤用を自然な変化ととるかエントロピーの増大ととるかの立場の違いがあるかもですね。後者だと、いずれ伝統的日本語は熱的死を迎えるという危機感がある(敬語を誤用乱用する人には脇の甘い暖かさがあるし)。
ビジネスマナーでいえば「なあなあ」を無くすのが目的の一つであると思うので、そういう中でバカをバカと言えないところに危機感の根本があるのでしょう。
>そういう中でバカをバカと言えないところに危機感の根本
でもネットだといいやすいから、あら不思議!
>ネットだといいやすい
身体感覚を通さないからもあるでしょうかね。
http://www.web-arita.com/ (5月の評言独語)
ついでに、罵倒はストレートが一番。
通じない場合も多いからねぇ。
店長宛に手紙を出す場合も、店長殿でいいのでしょうか?
店長の名前が分かればよいのですが、一度聞いて書き留めておかなかった為、再度聞くのは失礼かと…(;_;)
今時の若者は、あまり文章を書かなかったり、本を読まないのでコトバを知りません。
私も今、勉強中です。お返事よろしくお願いしますm(__)m